自律した、謙虚な組織をめざして

1895年にレントゲンによってエックス線が発見され、人工的な放射線利用が開始されたのは医療の領域からでした。それ以降、医療の領域では、放射線、放射性物質が診断、治療のために今日まで、ずっと使われ続けてきました。利用開始直後は、安全に対する配慮がないままに放射線や放射性物質が使われていたために、患者さんや医療従事者に放射線障害が発生し、1928年には、放射線防護に関する国際的な機関が組織され安全に対する配慮が行われるようになりました。この放射線防護・安全に係る国際組織も、医学関係者が中心となって組織されました。

 しかし、時代とともに、医療関係者の放射線安全・防護に対する関心は希薄となり、2011年に発生した原子力発電所の事故が、医療従事者の放射線防護・安全に関するスキルの不足を痛感するきっかけになりました。

 高度な放射線診療技術が日進月歩で進化し、医療における放射線診療の重要性がますます増加していく中で、患者さんの最も身近な存在として患者を看守り続けてきたことを自負してきた看護職も放射線診療をしっかり支えていく役割を果たしていかなければ成りません。

 放射線看護学は、「人々に大きな便益を与える放射線利用に際して、放射線を受ける人々(被ばく者)の「安心・安全」の担保のために看護職としての専門性を発揮できる科学的な体系をつくること」であると考えております。放射線診療に係る日本の法的規制の下で、看護職が自律的に実施できることは、放射線利用に伴う被ばく者(医療被ばく、職業被ばく、公衆被ばくをする人々)の「安心・安全」を得ることです。放射線診療を実施するか否かの「適用の判断」は、放射線防護および安定的な医療財源の運用等の観点から極めて重要なことです。放射線診療に限らず、日本においては日常的な診療行為の適用の判断は、医師によって行われているのが現状ですが、「インフォームドコンセント」が、これからの理想的な姿です。インフォームドコンセントのためには、患者さんが、自ら判断できる情報を持つことが必須要件であり、このための説明責任は看護職にもあり、放射線診療の概要、診療に伴うリスクなどの情報を患者さん達に提供できなければなりません。被ばく者と向き合っていくためには、看護職自らが、放射線利用に伴う「安全・安心」を理解し、適切な方策を実行していかなければなりません。

 学際的、実践的な学問である放射線看護学の確立のためには、放射線医学、放射線防護学、放射線計測学、リスク学など、既存の学問とのコラボレーションが極めて重要です。看護職にできること、出来ないことを客観的に判断できる謙虚な姿勢と、組織としての自律性を保った学会組織をつくっていくことが、放射線看護学の発展のために不可欠であると考えております。

 日本放射線看護学会も設立5年目を迎え、会員数も徐々に増加して進化・発展を続けております。

 数多くの領域の専門家・実践家を取り込んだ力強い組織をめざしましょう。

平成28年3月

理事長 草間 朋子